2024年11月17日(日)、大阪・アメリカ村BEYONDにて神戸在住の音楽キュレーター・遊津場による『YUTSUBABA-N! vol.5-NEW AUTUMN-』が開催された。注目のニューカマーが多数出演し、次世代シーンの行く末を占ってきた『YUTSUBABA-N!』は、2020年2月にローンチ。約半年ぶりの開催となった今回は、カニバル、インタールード、RIP DISHONOR、おもかげ、コロブチカ、AKAMONE、Madam’sの7組が出演。フレッシュなアーティストたちが相まみえた1日の様子を一挙に振り返ろう。
Madam’s
トップバッターのMadam’sは、シンガロング必至の「蒼いまま」をのっけから披露し、持ち前の求心力で朝早くから集ったオーディエンスを取り込んでいく。
<僕らはこのまま空へと羽ばたくだろう>と飛翔を予感させる「空の飛び方」は、その後語られた「最近は終わっていくバンドもよく見かける。永遠はないから、いつかは終わってしまうけれど、その上で俺たちは俺たちの音楽を届けていく」の宣誓とシナジーを起こし、一層アンセマティックな相貌を呈す。同曲において<きっと僕らは繋がっているから 待ち合わせようあの空で>と約束が交わされているように、本イベントを契機に羽ばたいていくバンドたちが「またいつか同じ空を泳いでくれたら」と願いたくなる切り込み隊長だった。
AKAMONE
『遊津場さんに「好きにやって」と言われました。俺は俺の歌を真っ直ぐ歌います』。こんな宣言と共にギアを上げたのは、2番手に登場したAKAMONEだ。スコアを埋め尽くすがごとく配置されたシンバルとベースが胸をかきむしる哀しみを体現した「通り雨」や、「区切りをつけるための曲」と称された「サヨナラ badBOYFRIEND」とリリースしたばかりのナンバーを主軸に据え、清涼感とざらつきが共存する野元純太(Gt,Vo)の歌声を先陣にメロウな空気を醸成していく。過去を回帰するラブバラード群が会場に染み渡っていった25分間は、野元が「大切な日になると思います」と語っていた通り、この場を共有したすべての人にとって邂逅にほかならなかった。
コロブチカ
少年と大人の狭間で僕らはもがいている。「モラトリアム」に換言されてたまるかと思う焦燥感や野心、ノスタルジーを3番手・コロブチカは、どストレートにぶちまけてみせた。北原圭悟(Vo,Gt)がアルペジオを鳴らし始めると、日が暮れるようにステージは茜色に染まっていく。そこからドロップされた「ユーズド・ユース」ではひとりごつリリックが宙を舞い、<バイバイ>のシャウトを合図に二度と訪れない日々へ別れを告げた。エンディングを彩ったのは「Teenage Riot」。学生時代を回顧しながら残酷にも進むしかない時間を歩んでいくことを叫んだ同ナンバーは、同世代のアンセムとして以上に、通学路を彩る素朴で身近な1人1人の曲として機能していくだろう。
おもかげ
折り目のついた真新しいタオルをかけたファンの多さからも、期待値の高さが伺えるおもかげが関西に初来襲。ポエトリーリーディングで幕を上げるSE「解放戦線」で早々に世界観を提示すると、ギター2本が官能的に絡み合う「ミライ」をオープニングナンバーに選択する。ファンタジックな手触りで会場を満たしたかと思えば、アタック感の強いスラップベースや高速タッピングの掛け合いが炸裂する「微熱」、アカペラによって濃く色を放つ日隈貫太(Vo,Gt)のファルセットがシンボリックな「ラベンダー」を投下して、もはや死角無し。時折滲ませる笑顔には結成1年目らしいあどけなさが見てとれるものの、シームレスな曲運びや縦横無尽に駆け回るステージングをはじめ、堂に入ったパフォーマンスを見せつけた。
RIP DISHONOR
後半戦の旗手を担ったのは、遊津場が「メンバーが中学生の頃から注目していた」とコメントするRIP DISHONOR。句読点や敬体の使い分けが特徴的なラインは、物語性を多分に含有しながらも、きっぱりと断言してしまう爽快感を漂わせる。そんな清々しさは、下田睦典(Vo,Gt)のフラジャイルな危うさをはらんだボーカリゼーションや浮遊するギターと相まって、ゆっくりと客席を波立せていく。織り交ぜられた電子音と音域の棲み分けられたベースが大きく響くラストナンバー「18」のクライマックス、平凡を肯定する2行が深い爪痕を残した。
インタールード
ライブ終盤、たしろひな(Gt,Vo)は「鬼のようなスケジュールで、アホかも知らへんし、何も形には残らないかもしれへん。でも、1個だけ分かったことがあります。バンドをやり続ける理由があるってこと。人のためになれるなら、何でもやります。格好良いライブやります!」と叫んだ。無数のライブで体力も精神も使い果たしたインタールードの手元に残ったものは、歌い続ける意味にほかならない。だからこそ、最後を締めくくった「忘れたくないもの」には自分たちの現在地を再確認する覚悟が籠っていたし、「あなたへ」「17」と爆走したライブ冒頭でも勢いに飲まれることのない芯を感じることができたのである。遊津場が「ヒーローみたいな存在」と語るインタールードが、この日最もパンキッシュなサウンドスケープを描きBEYONDに見参!
カニバル
この日のトリを務めたカニバルは、高速のギターブラッシングが爆発する「青天井」やジャジーな「RondØ」とシングル曲を畳みかけ、フルスロットルで滑り始めた。<猫被りの シティボーイにゃrattttttttttt>を代表例に既存の意味から解放された耳馴染みの良さが印象的な詞と、<9.8は0になった。>をはじめインテリジェンスや遊び心が詰まったフレーズが共存することによって、怪盗をイメージさせる掴みどころのないダークなトーンを描いていく。叫ぶ柿内六甲(Gt,Vo)とボイスチェンジャーを利用する西尾遼平(Gt,Vo)のコンビネーションがリリックの持つバランス感覚とシンクロする新曲「オンボロとファジー」まで、フロアを揺らしまくった熱演でゴールテープを切った。
こうして終幕を迎えた『YUTSUBABA-N! vol.5 -NEW AUTUMN-』。昼にも関わらず110名を超える来場者があり、COFFEE wesによるフード出店や長く確保された物販タイムなど、各所に主催である遊津場のホスピタリティが充満しており、バンド同士のみならず、バンドと観客の新たな交流の場になっていると感じた。次回はどんなアーティストが、本イベントから羽ばたいていくのだろう。そのカギを握る遊津場の活動にも熱視線を送りたい。
イベント概要・関係者
イベント主催=遊津場
https://x.com/sakidori_yutuba
取材・文=横堀つばさ
https://x.com/45283wing?t
撮影=愛
https://x.com/p__shima_