”爆音×関西”から始まる新たなカウンターカルチャーBob×Lambiris pre「未明の最前線 没個性の反撃」ライブレポート

2月25日、大阪の3人組ロックバンド・Bobが盟友である京都のロックバンド・Lambirisと大阪の新星・MOTHER GOOSEを迎えた初企画「未明の最前線 没個性の反撃」が寺田町Fireloopスタジオにて開催された。

没個性とタイトルにあるため、私も正直に見る前に思っていたことを書くと、彼ら3組はカテゴライズが難しい。実際「誰と対バンを組むか難しい」という声も聞いた。

ただこの3組の共通点は”爆音である”ということ。
この日はスタジオライブのため、演者と客は0距離の密閉空間。各バンドのSNSには事前に「耳を保護するものをお持ちください」と何度もアナウンスしていたほど。
そして当日はSOLD OUTを記録。隙間なく人が集まった夜のスタジオにて行われたそのライブとは。
3組ともMCはほぼ無し。鳴らされる爆音と歌詞、そして魂のステージから受け取ったものの記録。

MOTHER GOOSE(O.A20分)

photo by ひとみ

ウオモトダイチ(Gt.Vo)から鳴らされる静かなイントロから、ケイタ(Dr)を合図に激流のように流れ込む轟音はこの日のオープニングに相応しい。この1曲目『Minus』から最後までそうだったのだが、容赦ない轟音だけでなく、透明感があって静かに聴かせるメロディも美しい。あまり年齢のことは言いたくないのだが、まだ10代の同じ学校の軽音部でもないという4人がいつこういった音楽に触れて、どんな景色を見てきて、そしてこんなメリハリの付いた良いバンドサウンドを作れているのか不思議だ。

2曲目『夜は終わらない』は複雑さと雄大さを兼ね備えたサウンド。そして間奏では田村(Ba)を筆頭に動きが大きくなる4人の演奏に気持ちが昂る。ただ4人の表情は終始クール。音に心技体を詰め込んでいて、余計なことはせず、本能のままにという様に見える。『僕の名前を』『Magic』はよりウオモトのボーカルと歌詞がハッキリと届かせる曲。りょうと(Gt)とのツインボーカルのパートもあり、発想も柔軟に感じた。ラスト『Sketch book』は吸い込まれるようなメロディから、轟音なのに邪魔をし合っていない、4人のコンビネーションの高さを感じる隙のないサウンド。アウトロまで渾身の演奏で轟かせた。勢いや若さだけで片付けるべきではない洗練された音。これからも何枚もの壁を響き壊してほしい。

<セットリスト>
1.Minus
2.夜は終わらない
3.僕の名前を
4.Magic
5.Sketch book

Lambiris(前半20分・後半25分)

photo by ひとみ

まだ残っていたMOTHER GOOSEの熱を抑え込むように、会場をゆったりと沈めていくイントロを鳴らし『45%』を静かに歌い出す黒崎灯(Vo.Gt)。徐々にボルテージを上げていき、そのまま『平行線を辿る』の軽快なメロディが始まると、そのノリの良さに会場の雰囲気も弾み出す。熱気は高まり、メンバーにも笑顔が見える。きっちりとLambirisの音にフロア全員が乗車したことが分かった。

そしてその音が連れてきた行き先は『少しだけ』『リコリス』という黒崎の弱さや脆さも含めて感情の全てを詰め込んだ世界。昔から”全員には、届かない音楽を。”というコンセプトを掲げている通り、無理にフロアに共感を求めたりはしない。しかし昨年4月に新体制が始まってから積み上げたHinata(Dr)やきょーや(Sup.Gt)、フミヨシ(Sup.Ba)、スタッフのひとみとの日々。そして盟友・Bobと共に「ボク達は音で反撃します」という覚悟。そこにリーダーである黒崎から、この1年でLambirisの活動を経て背負ったものが多いからこそ出せる強さを感じるアクトを見せる。それに激しい演奏で各メンバーも応えていた。そして幽玄なダークナンバー『残光』では、静寂も掌握した後、解放。きょーやが衝動的にドラムに乗って演奏するというクライマックスを見せて、前半は終了した。

photo by ひとみ
photo by ひとみ

休憩を挟んだ後半。「盟友・BobにLambirisから愛を込めて」とBobの『アステロイド』のカバーからスタート。また普段の曲とは違った新鮮な重力感と親和性のある轟音で会場からクラップが起こるなど盛り上げる。続けてこの日から発売された会場限定発売Single『愛情とハイボール』を披露。「本心を隠しながら好きな人と一緒にいるのは辛いなと思った時に作った」という曲で、これまでのLambirisにはあまりなかった生活感のあるバンドサウンドが間違いなくこれからのセットリストの中で輝く1曲だった。

最後に黒崎はフロアへの感謝を告げた後、今回がライブ現場最終日というスタッフのひとみへも感謝を告げる。そしてこれからも進んでいくことを約束し「私たちの反撃はまだまだ終わりません」と『海月』と『無彩色』を演奏。もう最後の『無彩色』の終盤は前半が霞むほどの壮絶な景色。今度はきょーやだけでなく、黒崎もドラムに乗ってギターソロをするし、フロアに倒れ込むように演奏するし、きょーやとフミヨシは何故か途中で楽器を入れ替えるし、卒業するひとみにギターを弾かせている場面もあった。比較的表情を崩さなかったHinataもかけていた眼鏡が吹っ飛んでいて、演奏の躍動感が半端なかった。ただそんな秩序も境目もない時間に流れたのは幸福感。それは最後まで誰も置いていかず、むしろ同じタイミングで呼吸をしてるくらいにはLambirisという生命体の一部にフロア全員が変わっていたからだろう。

Lambirisの音楽は毎日のように聴く音楽ではひょっとしたらないかもしれない。ただあなたが人生で窮屈感を感じた時、轟音というやり方で呼吸の方法を思い出してくれる音楽ではあると感じた。

photo by ひとみ

<セットリスト>
1.45%
2.平行線を辿る
3.少しだけ
4.リコリス
5.残光
6.アステロイド(Bob cover)
7.愛情とハイボール
8.海月
9.無彩色

Bob(前半20分・後半25分)

photo by ひとみ

イベントを締めるのはBob。MOTHER GOOSEとLambirisが創り上げた爆心地に、まずは朝靄のような柔らかさと深さを持ったサウンドをゆったり響かせる。
そしてキタムラ(Ba.Cho)の「反撃開始」の一言を合図に、いけりょ(Dr)のドラムが鳴り出し『アステロイド』からスタート。先ほどのLambirisのカバーも良かったが、そこはやはり本家。近くにいるはずなのに、その曲の持つスケールと神秘感からか3人が遠く、大きく見えた。ヤスダ(Gt.Vo)の歌声と3人の演奏は徐々にボルテージを上げ、フロアを異空間まで打ち上げる。キタムラのコーラスも効果的だ。そこから鼓動のようなベースイントロから『ノイズ』へ。泥臭くなった疾走感のあるバンドサウンドと曲中のシャウトが否が応でも自分の中の衝動を駆り立てる。当の本人、キタムラも早くもドラムに乗ったり所狭しと演奏。

互いにギラギラ突っ切るかと思ったら、再びゆったりとしたメロディが流れる。でもこれはクールダウンではない。感情を本当に最高潮に持っていくための最高のスパイス。その後も時に激しく、時になだらかなサウンドを奏で続けて、最高な塩梅で聴衆を調理したインスト曲の『plug』だった。そこから躍動するドラムビートから始まる新曲『踵』を披露。軽快さがありながら、間奏の少し余裕も与えるような落ち着いたリズムから激しく変わるラスサビへの繋ぎがドラマチックだ。しっかりとキメて、拳と拍手を浴びながら前半終了。

photo by ひとみ
photo by ひとみ

後半は『あいかわらず』からスタート。少しノスタルジックな空気もまとった楽曲で普遍的な良さを与える。続くは重みのあるビートとギターの華やかなメロディのコントラストが印象的な『造花』。しっかりとした切れ味と品のある楽曲で日本のオルタナティブロックならではの精神性があると感じた。そんな少し雅な気持ちも感じながら次の『レトリックマイボーイ』を聴くと、その柔らかな音圧も深くまで刺さってくる。

そして最後にフロアに感謝を伝え、ラストの『核弾頭』へ。最後の最後でまたワクワクするような高速ドラムプレイが鳴り響き、ここまで隠していたのかというようなワイルドなサウンドで、まだこちらが開けていなかった期待感の扉をこじ開ける。そこにしっかりデカくて重く、そして何より破壊力のある弾丸を置いていった。こんな頼もしい武器はない。ステージとフロアがしっかりこれからの”反撃の共犯者”となり、ライブは終了した。

photo by ひとみ

飄々とした雰囲気もありながら、様々なメロディを乗りこなし、高い温度を持って届けるヤスダのボーカル。
キタムラの持つステージの支配力の高さ。2人とはまた違った雰囲気を持っているからこそ、曲に幅を生むいけりょのドラム。
その3人が繰り出す楽曲は高いセンスによって、轟音で切り拓いた更地に独自の秩序や文化までも合わせて与えているようだった。

でもこの日、その土地はMOTHER GOOSEが先陣を切ったから発見できたと思うし、そこに生命が生息できるようにしたのはLambirisの奥深く繊細な音楽だと思う。大袈裟かもしれないが、この日の3組は3時間弱で新たなロック大陸をわずかながらでも創り出したと思う。この土地、簡単には奪えないから、試しにどんなロックバンドでも、リスナーでも、どんどんかかってきてほしい。共犯者として自信を持って発信させていただきます。

<セットリスト>
1.アステロイド
2.ノイズ
3.plug
4.踵
5.あいかわらず
6.造花
7.レトリックマイボーイ
8.核弾頭

ライター:遊津場(X):https://x.com/sakidori_yutuba
        (Instagram):https://www.instagram.com/sakidoriyutsuba/
カメラマン:ひとみ (X):https://x.com/genkai_graphy
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